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福岡高等裁判所 昭和37年(ラ)19号 決定 1962年2月06日

抗告人 市山カナ

主文

本件抗告を棄却する。

理由

抗告の趣旨および理由は別紙のとおりである。

よつて考察するに、原審における遺言者市山常太郎審問の結果によれば、同人は原審判添附の遺言書が同人の口述を筆記したものに相違ないことを明言し、また記録にあらわれたところによれば右審問時における同人は老衰が甚だしく聴覚が減退していたため補聴器を使用して応答したものであるが、まだ同人が遺言をなしうる精神状態にあつたことは、同人の陳述の内容をみても明らかであり、以上のような遺言者審問の結果に本件遺言の立会証人となつた原審証人大皿川甚太郎、同桑田利二郎、同小坂若一の各証言を総合すれば、本件遺言が遺言者市山常太郎の真意に出たものであるとの心証を得るに十分である。抗告人は本件遺言が遺言者の長男市山猶作の遺言者に対する甚だしき虐待強迫行為にもとずくものであることを強調し、かつ本件遺言の内容が抗告人主張の物件につき抗告人が遺言者より生前贈与ないし売買によりその所有権を譲り受けた事実に相反する点を指摘し、猶作が抗告人を排除し遺産を独り占めにするため本件真意にもとずかない遺言をなさしめるに至つたものであると主張するけれども、抗告人提出の売渡証書、領収証、契約証書(いずれも写)は前示遺言者審問の結果に対比し信を措き難く、本件遺言書の記載によれば遺言者は妻たる抗告人に対しても相応の住家宅地山林等を譲渡する旨約した事実を認めることができ、その他猶作が遺言者に対し抗告人主張のような虐待強迫を加えた事実を認めて前示当裁判所が得た心証を動かすに足る資料はない。

右の次第であるから本件遺言を確認した原審判は相当で本件抗告は理由がない。よつて抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 川井立夫 判事 秦亘 判事 高石博良)

(別紙)省略

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